名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)1889号 判決 1998年6月22日
原告
大久保徹
外七名
右八名訴訟代理人弁護士
秋田光治
同
伊藤誠一
同
今村憲治
同
岩本雅郎
同
木村静之
同
後藤和男
同
正村俊記
同
高柳元
同
藤田哲
同
堀龍之
同
森茂雄
同
山崎浩司
同
山田万里子
被告
A
被告
B
右被告両名訴訟代理人弁護士
萬場友章
右訴訟復代理人弁護士
新谷桂
被告
C
右訴訟代理人弁護士
山田有宏
右訴訟復代理人弁護士
松本修
同
堀合美賀
被告
D
外二名
主文
一 被告A、B、同C、同E、同Fは、左記原告らに対し、各自、左記の金員及びこれらに対する昭和六〇年八月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
記
1 被告A、同B
(一) 原告大久保徹に対し、金三四一三万四九二五円
(二) 原告今枝詳治に対し、金三七五五万円
(三) 原告加瀬博己に対し、金四八〇万円
(四) 原告金山雅俊に対し、金三九五万円
(五) 原告髙橋増次に対し、金一六四万三〇〇〇円
(六) 原告竹尾大行に対し、金一一八万円
(七) 原告中村清に対し、金一二〇八万〇八四五円
(八) 原告福永聰彦に対し、金八四三万〇五五五円
2 被告C
(一) 原告大久保徹に対し、金三四一三万四九二五円
(二) 原告今枝詳治に対し、金三七五五万円
(三) 原告加瀬博己に対し、金四八〇万円
(四) 原告金山雅俊に対し、金三九五万円
(五) 原告髙橋増次に対じ、金一六四万三〇〇〇円
(六) 原告竹尾大行に対し、金一一八万円
(七) 原告中村清に対し、金五九〇万円
(八) 原告福永聰彦に対し、金八四三万〇五五五円
3 被告E
(一) 原告大久保徹に対し、金三三六三万四九二五円
(二) 原告加瀬博己に対し、金四五〇万円
(三) 原告中村清に対し、金三九六万三五九〇円
(四) 原告福永聰彦に対し、金七四三万〇五五五円
4 被告F
原告中村清に対し、金三八一万七二五五円
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを六分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告油本克憲を除くその余の被告らの負担とする。
四 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、
(一) 原告大久保徹に対し、金三四一三万四九二五円
(二) 原告今枝詳治に対し、金三七五五万円
(三) 原告加瀬博己に対し、金四八〇万円
(四) 原告金山雅俊に対し、金三九五万円
(五) 原告髙橋増次に対し、金一六四万三〇〇〇円
(六) 原告竹尾大行に対し、金一一八万円
(七) 原告中村清に対し、金一二〇八万〇八四五円
(八) 原告福永聰彦に対し、金八四三万〇五五五円
及びこれらに対する昭和六〇年八月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(被告ら全員)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 投資ジャーナルグループ
(一) 訴外株式会社投資ジャーナル(以下「投資ジャーナル」という。)は、昭和五三年一〇月四日、雑誌の出版及び販売、金銭貸付業務等を目的として設立された株式会社であり、設立当時の代表取締役は訴外N(以下「N」という。)であり、本件訴え提起時の代表取締役は訴外K(以下「K」という。)である。被告C(以下「被告C」という。)及び訴外M(以下「M」という。)は取締役に就任したことがあり、後記(二)ないし(九)記載の会社らからなる被告らグループ(以下「投資ジャーナルグループ」という。)の中心的存在である。
(二) 訴外株式会社東京クレジット(以下「東クレ」という。)は、昭和五七年八月三日、金銭貸付業務、有価証券の保有及び運用等を目的として設立された株式会社である。設立当初の代表取締役はNであり、被告F(以下「被告F」という。)、加藤、訴外T(以下「T」という。)は取締役に就任したことがあり、投資ジャーナルグループにおける一般投資家からの金銭受入窓口となっていた。
(三) 訴外東証信用代行株式会社(以下「東証信」という。)は、昭和五八年五月二〇日、金銭貸付業務、有価証券の保有及び運用等を目的として設立された株式会社であって、設立当初の代表取締役は訴外名取實であり、被告D(以下「被告D」という。)がその取締役に就任したことがあり、投資ジャーナルグループにおける一般投資家からの金銭受入窓口となっていた。
(四) 訴外日本証券流通株式会社(以下「流通」という。)は、昭和五八年一一月一八日、有価証券市場における情報の収集及び提供義務、有価証券の取得、保有及び運用、金銭貸付業務等を目的として設立された株式会社であり、設立当初の代表取締役は訴外G(以下「G」という。)であり、投資ジャーナルグループにおける一般投資家からの金銭受入窓口となっていた。
(五) 訴外株式会社ラック(以下「ラック」という。)は、昭和五五年四月七日、金銭の貸付または金銭の貸借の媒介業、広告の代理業、株式への投資又は運用業等を目的として設立された株式会社であり、N及びKが代表取締役に、T及びMが取締役に就任したことがあり、投資ジャーナルグループの実質上の経営本部となっていた。
(六) 訴外株式会社日本ビデオソフト(以下「日本ビデオソフト」という。)は、昭和五八年一月二二日、広告代理業務等を目的として設立された株式会社であり、被告Dも代表取締役に就任したことがあり、主に投資ジャーナルグループの資産隠しに使われた。
(七) 訴外株式会社インダストジャパン(以下「インダストジャパン」という。)は、株式会社インデックス出版として昭和五八年二月二一日に、書籍及び雑誌の出版並びに販売等を目的として設立された株式会社であり、被告Dは取締役に就任したことがあり、主に投資ジャーナルグループの資金管理等を行っていた。
(八) 訴外株式会社日本事務代行(以下「日本事務代行」という。)は昭和五五年九月一八日、金銭貸付業務等を目的として設立された株式会社であって、Tが代表取締役に、被告C及びKが取締役に就任したことがあり、主に投資ジャーナルグループにおける会員の名簿管理、従業員の給与計算、及びグループ各社の資金管理等を行っていた。
(九) 訴外株式会社相愛會(以下「相愛会」という。)は、昭和五五年七月一五日、投資顧問に関する業務等を目的として設立された株式会社であって、被告E(以下「被告E」という。)及びNは代表取締役に、K、被告E、Mが取締役に就任したことがあり、投資ジャレナルグループの投資顧問集団の一つである。
2 投資ジャーナルグループの営業の実態と一般投資家の被害
(一) Nは、昭和五七年三月ころ、Kらとともに、顧客が保証金を差し入れるとその保証金の一〇倍までの金額を当該顧客の株の買付資金として当該顧客に融資し、顧客からその枠内で株の売買の注文を受けてこれを証券会社に取次ぎ、当該顧客のために株式を売買するサービス、すなわち一〇倍融資商法(以下「一〇倍融資」という。)を行うと称し、一般投資家から担保として保証金や株券を集めながら、実際には顧客の指示する株は購入せず、しかも預かった保証金や株券を無断で他に流用するという詐欺的商法を行うことを決意した。
(二) 投資ジャーナルグループは、N、Kの指揮の下、同年三月下旬、投資ジャーナルにおいて被告E、同D及び他の営業部班長に対し、一〇倍融資を説明し、各人の了解を得て、投資ジャーナルは組織ぐるみで詐欺的商法を行うことになった。そして、顧客に対して正当な取引であるかの如く装うために虚偽の売買成立の報告をして現金や株券を受け取る窓口のための証券金融会社として、東クレ、東証信及び流通をそれぞれ設立し、昭和五七年一〇月から被告Fを責任者として東クレの営業を、昭和五八年二月からGを責任者として流通の営業を開始したが、各社の営業に際し、N、Kらにおいて右F、Gに一〇倍融資の詐欺的商法を説明し、これに協力するよう指示し、その了承を得たほか、その後投資ジャーナル、東証信、東クレ、流通に入社してきた各社員に対しても、各社の責任者や班長から右商法を教示し、これに協力することの了解を得ている。東クレ、東証信及び流通は証券取引法に基づく有価証券の売買、売買の媒介・取次・代理業を行うための大蔵大臣の免許を得ることが必要であるにもかかわらず、その免許を得ずに、あたかも正規の証券業者ないし証券金融業者の如く各社の名において「取引報告書」「預かり証」を発行し、被害者達を欺き、詐欺的商法を継続させた。
(三) さらに、右(一)と同時期ころ、実際には、東クレ、東証信及び流通において、顧客から株式の買付の注文があった場合にも株式は全く買い付けていなかったか、又は少なくとも総量に見合う株式を買い付けておらず、注文に応じた株式売買の取次をする意思がないのにこれを秘し、投資ジャーナルの従業員をして、顧客のために株式の売買を取り次ぐかのように装わせ、顧客から株式購入代金名下に東クレ、東証信及び流通に現金または株券を送付させてこれらを騙取した。
(四) Nは、右一〇倍融資を開始した約半年後の昭和五七年九月末、投資ジャーナルグループの班長会議の席で、分譲する株もなければ分譲する意思もないのに、顧客に対し、東クレや東証信が安い時期に買い付けた株式を、当時の価格で売却するなどと虚偽の事実を告げて一般投資家を欺罔させ、株式の購入を勧誘させて、一般投資家をして株式分譲代金名下に現金等を騙し取る株式分譲方式による詐欺的商法(以下「株式分譲」という。)を展開することを決定し、営業部門各班長や、証券金融部門の責任者にその旨指示し、これに協力する旨の了解を得ることにより、前記一〇倍融資と同様、投資ジャーナルグループ全体に共謀が成立している。
(五) グループ各社の役割
(1) 投資ジャーナルによる宣伝
投資ジャーナルは、被告らグループの中心的な法人であり、Kが代表取締役を務めている。「月刊投資家」「週刊投資家」等の雑誌書籍類を刊行したり、テレビ、ラジオ、新聞等のマスコミによる派手な広告により、投資ジャーナルグループの存在を一般投資家に印象付け、同人らの目を同グループに向けさせる宣伝媒体の役割を果たし、投資顧問、一〇倍融資、株式分譲の被害者を作り出す手段として利用されていた。即ち、株式取引に関係ありそうな政財界の要人を表紙に載せ、かかる者とのインタビュー記事を載せて、投資家の関心を集めて購入させたり配布し、雑誌中の広告によってアンケートに答えてきた大衆投資家が一〇倍融資や株式分譲の被害者となった。
(2) 投資顧問集団による勧誘
投資ジャーナルグループには、「豊かな未来の会」とか「覆面太郎の百人会」とか称する約四〇の投資顧問の組織があったが、各営業員において一般投資家に適切かつ有益な情報を提供して一般投資家を指導する意思も能力もないのにこれがあるように装わせ、前記の宣伝等により連絡してきた一般投資家に対し、前記投資顧問の会に入会すれば適切かつ有益な情報を得られ、確実に利益が得られるかのように虚偽の事実を告げさせ、顧客をしてその旨誤信させて入会させ、顧問料・年間指導料・入会金等の名目で金銭を騙取した。そして、入会した会員が一〇倍融資や株式分譲の被害者となった。
(3) 証券金融会社の設立
投資ジャーナル投資顧問部営業班、株式班の各班の詐欺勧誘によって騙された顧客に対し、正当な取引であるかの如く装うために虚偽の売買成立の報告をして現金や株券を受け取る窓口となり、その出入りを管理した部門が東証信、東クレ、流通(以下「証券金融三社」という。)であり、この東証信の現場責任者が被告Eであり、東クレの現場責任者が被告Fであった。
こうして、証券金融三社が顧客から騙し取った現金や株券を最終的に管理し、Nによる投資行動の資金として運用し、Nの株式売買の受渡しを行っていたのが、Nの妻である被告A(以下「被告A」という。)が主宰する部署(後のラック)であった。
3 原告らの被害
(一) 原告大久保徹(以下「原告大久保」という。)について
(1) 右のように投資ジャーナルは、的確な株式売買の情報を提供する意思も能力もないのに、その発行する雑誌「月刊投資家」に、投資ジャーナルの主催する会の会員となれば、右情報を提供する旨広告して右会員になることを勧誘し、右勧誘広告を見た原告大久保は、その旨誤信して、昭和五九年二月三日、右会員になることを決意し、顧問料名下に現金五〇万円銀行振込により投資ジャーナルあて送金した。
(2) 投資ジャーナルの従業員は、同社の業務として真実は同社において売却できる株式を保有していないのに、あたかもこれを保有しており、かつ安価にこれを提供できるかの如く装って、昭和五九年二月三日、原告大久保に対し、株式を特別に安く譲ると申し向け、その旨誤信した原告大久保は、同月八日、「三和大栄電気興業」の株式一万株、「松下電器」の株式二〇〇〇株を買うこととし、同月一〇日と一三日の二回にわたって、現金合計七七三万二六七五円を、投資ジャーナル従業員の指示により東証信あてに銀行振込により送金し、「松下電器」の株式二〇〇〇株(金三六〇万円)については受領した。
(3) 投資ジャーナルの従業員は、昭和五九年二月一三日、同社の業務として、原告大久保が右(2)のように誤信しているのを奇貨として、これに対し、「三和大栄電気興業」の株式六万株を買い増しするよう勧誘し、原告大久保は、右誤信に基づいて右勧誘に従い、同月一五日ころ、右代金として二四五〇万二二五〇円を、投資ジャーナルの従業員の指示により東証信に交付した。
(4) また、原告大久保が投資ジャーナルの指示で買った「保土ヶ谷化学」の株価が値下がりしていたところ、投資ジャーナルの従業員は、昭和五九年三月一日ころ、同社の業務として、同社が保有していないし譲渡することもできない「三菱金属」の株式七〇〇〇株につき、これを安く譲る、これを買えば「保土ヶ谷化学」の株式の取引による損害を取戻せる等と申し向け、さらに、原告大久保にその買受のための現金がないと分かるや、真実は投資ジャーナルにおいて融資をする意思も能力もないのにこれある如く装って、原告大久保に対し、株式を担保に購入資金を融資すると申し向け、原告大久保をして、右一連の申向内容を真実と誤信させ、よって、そのころ、「千代田化工建設」の株式五〇〇〇株(時価五〇〇万円相当)を「三菱金属」株式購入代金三五三万五〇〇〇円の融資を受ける担保として、東証信あて郵送せしめた。
(5) 以上のとおり、原告大久保は、受領した「松下電器」の株式二〇〇〇株(金三六〇万円)分を除く現金計二九一三万四九二五円と「千代田化工建設」株式五〇〇〇株を騙取されたものであり、よって、右現金同額及び右株式の時価相当額、合計三四一三万四九二五円の損害を被ったものである。
(二)原告今枝詳治(以下「原告今枝」という。)について
(1) 投資ジャーナルの従業員で、同社発行の雑誌「週刊投資家」の編集長である訴外Y(以下「Y」という。)が、同社の業務として、昭和五八年一月ころ、同誌の資料を請求した原告今枝に対し電話で、その意思も能力もないのに、同社の主宰する会の会員になれば雑誌等で公表できない投資のための有利な情報を入手次第教示する旨虚偽の事実を申し向け、原告今枝をして、その旨誤信させ、よって、同月二五日、会費名下に現金三〇万円を投資ジャーナルあて振込送金せしめた。
(2) さらに、昭和五八年三月一四日、投資ジャーナルの従業員である訴外S(以下「S」という。)は、投資ジャーナルグループの業務の一環として、原告今枝に対し、その意思も能力もないのに、値上がりする株式に関する情報を他の誰よりも先に教える等と虚偽の事実を申し向け、原告今枝をして、その旨誤信させ、よって、顧問料名下に現金二五万円を投資ジャーナルあて振込送金せしめた。
(3) Sは、その意思も見込みもないのに、原告今枝に対し、流通を通じ「持田製薬」の株式を安く買い入れ利益を得させる旨虚偽の事実を申し向け、原告今枝をして、その旨誤信させ、よって、昭和五九年八月三日現金二〇〇〇万円を、同月一二日同一七〇〇万円を、いずれも流通に対する右株式買受代金の支払分として、交付させた。
(4) 以上のとおり、原告今枝は、現金計三七五五万円を騙取され、よって、同額の損害を被ったものである。
(三) 原告加瀬博己(以下「原告加瀬」という。)について
(1) 投資ジャーナルグループは、投資顧問組織「豊かな未来の会」を作り、同会による利益を同グループ全体の利益として収受していたが、同会においては、かねてより、同会主宰の会の会員になれば他の業者よりも的確、迅速に、しかも個人投資家では入手しえないような投資に関する情報を提供する旨の内容虚偽の入会勧誘文を記載したダイレクトメールを一般投資家に発送し、あるいは同文の新聞広告を出していたところ、昭和五八年九月ころダイレクトメールでこれを読んでその旨誤信した原告加瀬は、昭和五九年二月八日、同会への入会登録費名下に三〇万円を同会あてに振込送金した。
(2) 同会の従業員訴外東某(以下「東」という。)は、原告加瀬の同会入会後間もなく、同会の業務として、原告加瀬に対し電話で、真実は買受などできないのにいい銘柄があるから買うようにと虚偽の事実を申し向け、同原告をして、その旨誤信させ、よって、昭和五九年二月一五日、「三井製糖」の株式二万二〇〇〇株の買受代金名下に現金四〇〇万円を、同年四月二五日、「上組」の株式二〇〇〇株の買受代金名下に現金五〇万円を、いずれも東証信あて振込送金せしめた。
(3) 以上のとおり、原告加瀬は、現金計四八〇万円を騙取され、よって、同額の損害を被ったものである。
(四) 原告金山雅俊(以下「原告金山」という。)について
(1) 原告金山は、前記「豊かな未来の会」の新聞広告を読んでその内容を真実と誤信し、よって、同会に入会する決意をし、昭和五九年六月二九日、同会への入会金名下に一万円及び年間登録費名下に一〇万円を同会に交付した。
(2) さらに、同会の従業員は、原告金山が同会に入会後間もなく、同会の業務として、原告金山に対し、流通において売却しうる株式を保有していないことを知りながら、流通を通じて「森永製菓」の株式を購入することができ、それが得策である旨申し向け、原告金山をして、流通から右株式を購入しうるものと誤信させ、よって、右株式一万株を買い受ける決意をさせ、その代金名下に流通に対し現金三八四万円を交付せしめた。
(3) 以上のとおり、原告金山は、現金計三九五万円を騙取され、よって、同額の損害を被ったものである。
(五) 原告髙橋増次(以下「原告髙橋」という。)について
(1) 投資ジャーナルグループの従業員訴外杉下某(以下「杉下」という。)は、昭和五九年六月ころ、原告髙橋に対し、同グループの業務として電話で、「新薬開発によって、香港筋が買いに入っている。暴騰する株式銘柄を教える。」と虚偽の事実を申し向け、同グループの主宰する会の会員になるよう勧誘し、その旨誤信してこれに入会することを決意させ、よって、直ちに、右入会金名下に現金四万円を、杉下の指示により投資ジャーナルあて送金させた。
(2) その数日後、杉下は、投資ジャーナルグループの業務として、原告髙橋に対し、流通において「大平洋金属」の株式を保有していないことを知りながら、流通がこれを保有しており、かつ、流通からこれを安価に買い受けうる旨虚偽の事実を申し向けて、これを流通から購入するよう勧誘し、原告髙橋をして、その旨誤信させ、よって、右株式三〇〇〇株を購入することを決意させ、昭和五九年七月一六日、その買受代金名下に現金九〇万三〇〇〇円を流通あて振込送金させた。
(3) また、投資ジャーナルの従業員斉木某(以下「斉木」という。)は、同社の業務として、昭和五九年七月一一日ころ、原告髙橋に対し、前同様の虚偽の事実を申し向けて、流通から「神戸生糸」の株式を購入するよう勧誘し、原告髙橋をして、その旨誤信させ、よって、右株式二〇〇〇株を購入することを決意させ、同月一三日、その買受代金名下に現金七〇万円を流通あて振込送金せしめた。
(4) 以上のとおり、原告髙橋は、現金計一六四万三〇〇〇円を騙取され、よって、同額の損害を被ったものである。
(六) 原告竹尾大行(以下「原告竹尾」という。)について
(1) 原告竹尾は、昭和五九年六月二八日、前記「豊かな未来の会」の新聞広告を読んでその内容を真実と誤信し、よって、同会に入会する決意をし、同年七月二一日、入会金名下に一万円及び年間登録費名下に一〇万円を同会に支払った。
(2) さらに、前記「豊かな未来の会」の従業員訴外鬼頭某(以下「鬼頭」という。)は、同会の業務として、昭和五九年七月末ころ、原告竹尾に対し、流通において売却しうる株式を保有していないことを知りながら、流通を通じて「森永製菓」の株式を購入することができ、それが得策である旨申し向け、原告竹尾をして、流通から右株式を購入しうるものと誤信させ、よって、右株式二〇〇〇株を購入する決意をさせ、同月三〇日、その代金名下に現金一〇七万円を流通あて振込送金せしめた。
(3) 以上のとおり、原告竹尾は、現金計一一八万円を騙取され、よって、同額の損害を被ったものである。
(七) 原告中村清(以下「原告中村」という。)について
投資ジャーナル、東証信及び投資ジャーナルグループの各従業員らは、それぞれその業務として、原告中村に対し、投資ジャーナル及び同グループの主宰する各会に入れば、有利な株式情報が得られる等の旨の虚偽の事実を申し向けて右会への入会を勧誘し、あるいは、真実は原告中村において当該株式を買い受けうる見込みがないのに、その見込みがあり、かつ、それが得策である旨申し向けて右株式の買受方を勧誘し、原告中村をして、その旨誤信させ、よって、右各会への入会及び株式の買受けを決意させ、別紙一覧表「交付年月日」欄記載の日に、入会金及び株式買付代金の名目で、同表「金額」欄記載の現金を、交付させてこれを騙取し、もって、その計一二〇八万〇八四五円相当の損害を与えたものである。
(八) 原告福永聰彦(以下「原告福永」という。)について
(1) 投資ジャーナルの従業員は、その業務として、昭和五七年ころから再三にわたり、原告福永に対し、同社は特別な情報を入手できるので、その推せんする株式の売買をすれば確実に利益が得られる、株式取引のための資金は東証信というしっかりした会社を紹介するが、東証信は株式を担保にその株価の一〇倍まで融資してくれる旨虚偽の事実を申し向け、右推せんを受けるための顧問料の支払方及び株式買付資金借入のための担保提供方を勧誘した。同原告は、前記第二の一3(一)(1)の「月刊投資家」の広告にも影響され、右従業員の言辞を真実と誤信し、よって、東証信に対し、株式買付資金の借入金の担保として、昭和五八年六月二三日住友金属鉱山株式会社の株式一〇〇〇株(時価一八五万円相当)、同年七月二二日同株式四〇〇〇株(時価七四〇万円相当)、同年一一月二一日現金五〇万円をそれぞれ交付し、投資ジャーナルに対し、顧問料として、同年七月二八日と同年一一月二一日に現金各五〇万円を交付した。
(2) 右のとおり、原告福永は、現金計一五〇万円と住友金属鉱山株式会社の株式計五〇〇〇株を騙取されたものであり、よって、右現金同額及び右株式の時価相当額計九二五万円、合計一〇七五万円の損害を被ったものであるが、東証信から、右損害額のうち合計二三一万九四四五円の支払を受けたので、その残額は八四三万〇五五五円である。
4 投資ジャーナルグループにおける被告らの地位、役割
(一) 被告Aは、Nの妻として投資ジャーナルグループの最高責任者としてラックの設立発起人となり、同社の実質的な責任者として騙取した金員及び株券を管理していた。すなわち、証券外務員経験による知識を駆使して組織全般の裏方としてNの投機活動と資金集めの詐欺活動を支えた。具体的には、ラックを主宰してNの株式の受渡事務と騙取株券や現金によってNの投機資金の資金繰りを行った。また、集金組織の一端を担う証券金融会社の設立と開業準備をし、組織員全般に対する指導に当たった。
(二) 被告B(以下「被告B」という。)は、ラック、東クレの設立発起人となるとともにNの秘書として最高機密を取り扱うとともに経理の最終的な責任者であり、被告Aの側近でもあった。すなわち、グループの組織全般の個別的な資金繰りと事務全般を統括する投資ジャーナル総務部はTが担い、全般の経理事務と被告Aの補佐を被告Bが務めた。
(三) 被告Cは、投資ジャーナル及び日本事務代行の取締役として、投資ジャーナルグループにおけるNの側近となり、「月刊投資家」の編集長も務めるなど出版部門を統括し、同グループの最高幹部の一人である。すなわち、投資ジャーナル全体の宣伝と詐欺集金組織である証券金融会社や投資顧問部(営業班、株式班)の宣伝及び一般顧客が詐欺被害に遭う接点となるアンケート葉書を一般大衆に伝える機関としての「月刊投資家」編集部は、被告Cが担った。
(四) 被告Dは、投資ジャーナルに班長制度が発足するとともに班長となり、東証信、日本ビデオソフト及びインデックス出版(インダストジャパン)の各取締役、「週刊投資家」の編集局長を務め、投資ジャーナルグループの有力幹部である。
(五) 被告Eは、相愛会の元取締役であり、投資ジャーナルでは営業部班長を務め、昭和五七年一〇月には東証信の営業部長となり、同社の営業全般を統括していた。
(六) 被告Fは、東クレの取締役として、同社の営業全般を統括していた。
(七) 前記2のとおり、一〇倍融資や株式分譲の各商法は、投資ジャーナル投資顧問部営業班と株式班及び証券金融部門がこれを担い、被告D、同E、同Fらはその責任者としての任務を果していた。そして、原告らの被害は、前記3のとおり、いずれも昭和五八年以降のものであり、右のような投資ジャーナルグループによる組織的かつ計画的な詐欺的商法により発生したものである。
(八) 本件詐欺事件において、右組織活動のいずれの部門が欠けても本件行為を円滑に遂行し、継続することは不可能であった。この活動を組織的に支えた被告らは、いずれも本件被害の全てについて、詐欺的商法についての認識及び共謀があったことは明白であり、共同不法行為による責任を負うものであることは明らかである。
5 被告らの責任
(一) そもそも、前記3の各騙取行為は、投資ジャーナルグループを構成する各会社(前記1の(一)ないし(九)掲記の各会社)が設立されてから右各騙取行為に至るまでの間に就任したすべての代表取締役(この中には、被告D、同Eが含まれている。)及び被告A、同B、同C、同Fが、右各会社の業務として、金員等を騙取しようと企てて共謀したうえ、自らこれを実行し、又は部下の従業員をしてこれを行わしめたものである。
(二) また、被告Dは日本ビデオソフトの代表取締役でありながら、同社が、投資ジャーナルグループの構成員として、前記違法行為を行うことを承認し、少なくともこの方針を是正する措置を何ら採ることなく、これを放置したものである。
(三) さらに、被告Cは投資ジャーナル及び日本事務代行の、被告Dは東証信及びインダストジャパンの、被告Eは相愛会の、被告Fは東クレの、ぞれぞれの取締役として、右会社の代表取締役が、前記違法行為を行わないように監視すべき義務があるのにこれを怠り、放置したものである。
(三) してみれば、被告らは、民法七〇九条、七一九条により、さらに被告C、同D、同E、同Fについては取締役としての職務執行につき悪意または重過失があるから商法二六六条の三により、連帯して各原告らに対し、その被った損害を賠償する責任がある。
(四) よって、被告らに対し、各自、
原告大久保は前記損害額三四一三万四二九五円、
原告今枝は同三七五五万円、
原告加瀬は同四八〇万円、
原告金山は同三九五万円、
原告髙橋は同一六四万三〇〇〇円、
原告竹尾は同一一八万円、
原告中村は同一二〇八万〇八四五円、
原告福永は同八四三万〇五五五円、及び右各金員に対する不法行為のなされた後である昭和六〇年八月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する答弁
(被告A及び同B)
1 請求の原因1の事実のうち、(一)ないし(九)記載の各会社の設立及び取締役については認め、その余は知らない。
2 同2の事実のうち、会員らから株券、金員の送付を受けていたこと、原告ら主張の雑誌の刊行、マスコミによる宣伝、投資顧問の組織が存在することは認め、その余は否認もしくは知らない。
3 同3の事実のうち、原告ら主張の雑誌の刊行、マスコミによる宣伝、投資顧問の組織が存在することは認め、その余は否認もしくは知らない。
4 同4の事実について
(一) 同(一)の事実のうち、被告AがNの妻であることは認め、その余は否認する。
(二) 同(二)のうち、被告Bがラック及び東クレの設立発起人であったことは認めるが、その余は否認する。
(三) 同(三)ないし(八)の事実は否認もしくは不知。主張は争う。
5 同5の事実のうち、各会社の取締役(代表取締役)については認め、その余は否認もしくは知らない。主張は争う。
(被告C)
1 請求の原因1について
(一)のうち、投資ジャーナルは雑誌の出版及び販売等を目的として設立され、被告Cが昭和五四年七月七日に代表取締役に就任し、同五六年四月二三日に辞任したが、同五八年一二月に取締役に就任し、登記されていること、(八)のうち、被告Cが日本事務代行の取締役として登記されていることは認め、その余は知らない。
2 同2の事実のうち、「月刊投資家」が投資ジャーナルグループ傘下の「豊かな未来の会」という投資顧問の会の記事や広告を掲載したことは認めるが、その余は知らない。
「月刊投資家」編集部は、同誌に掲載された広告原稿について、明らかな誤字脱字を訂正する程度であり、「月刊投資家」に掲載されたものと同一内容の広告が他の業界誌に掲載されていたし、他の業界誌やラジオ、テレビ、電車の中吊り広告等の掲載等は訴外トロン・ワンが行い、これについて編集部は全く関与していなかった。
3 同3の事実のうち、(一)の事実のうち、「月刊投資家」を発行したことは認め、その余は知らない。
4 同4の事実は知らない。
被告Cは、「月刊投資家」の編集長として働いていただけであり、編集部の場所が数回移動したため、昭和五三年一〇月創業以来、投資ジャーナルグループと同一のビルで働いたのは、昭和五五年八月から同五六年四月まで(タカノビル)と、同五七年四月から同五八年五月まで(兜町中央ビル)のみであり、「月刊投資家」編集部は、投資ジャーナルの営業金融部門とは全く関係がなかった。特に、昭和五八年九月から同五九年三月ころまでのわずか七か月間に「月刊投資家」の毎月号の他、臨時増刊や単行本など一五冊の編集を行う忙しさであったため、他の業務について全く知ることができなかった。
5 同5の事実について
(三)の事実のうち、被告Cが投資ジャーナル及び日本事務代行の取締役として登記されていることは認め、その余は知らない。
被告Cは、退職直前でも編集長としての給料として月額三六万円をもらっていただけであり、投資ジャーナルの取締役としての役員報酬を受領したことは一度もなく、同社では取締役会は開催されておらず、少なくとも被告Cは同社の取締役会の招集通知を受けたことは一度もなかった。被告Cは、投資ジャーナルの営業方針や新会社の設立には一切関与しておらず、登記簿上だけの名目的取締役で実質的権限を有していなかった。
(被告D及び同E)
請求の原因は全て否認し、主張は争う。
(被告F)
1 請求の原因1について
東クレの設立が昭和五七年八月三日であり、その設立目的が原告ら主張のとおりであることは認め、その余は否認ないし知らない。
東クレの営業目的は、主として有価証券を担保として貸付を行う金融業であり、証券取引法で規制される証券会社ではない。また、東クレにおける顧客の入出金、入出庫はすべて顧客の意向に基づいて行われたものであり、被告Fは顧客の金員を騙取する意思は全くなかった。
2 同2の事実は否認ないし知らない。
3 同3の事実のうち、原告今枝及び同中村が東クレと取引関係にあったことは認め、その余は知らない。
4 同4の事実について
(五)の事実のうち、被告Fが東クレの取締役として登記されていたこと、証券金融三社がNの統一的指揮命令により運営されており、投資ジャーナルの実質的な一部門であったことは認めるが、その余は否認ないし知らない。
被告Fは単に取締役として名義を貸していただけで取締役会に出席したことはなく、経営に関与する立場にもなく、取締役としての報酬も受けていない。
5 同5の事実は否認し、主張は争う。
理由
第一 投資ジャーナルグループの実態について
一1(一) 請求の原因1の事実のうち、(一)ないし(九)記載の各会社の設立日及び取締役の氏名
(二) 同2の事実のうち、投資ジャーナルグループが会員らから株券、金員の送付を受けていたこと、原告ら主張の雑誌の刊行、マスコミによる宣伝、投資顧問の組織が存在すること
(三) 同3の事実のうち、原告ら主張の雑誌の刊行、マスコミによる宣伝、投資顧問の組織が存在すること
(四) 同4の事実について
(1) 同(一)の事実のうち、被告AがNの妻であること
(2) 同(二)のうち、被告Bがラック及び東クレの設立発起人であったこと
(五) 同5の事実のうち、各会社の取締役(代表取締役)の氏名
については原告らと被告A及び同Bとの間では争いがない。
2 請求の原因1の事実のうち、被告Cが昭和五四年七月七日に投資ジャーナルの代表取締役に就任し、同五六年四月二三日に辞任したが、同五八年一二月に同社の取締役に再度就任し、その旨登記されていることは、原告らと被告Cとの間では争いがない。
3 請求の原因3の事実のうち、原告今枝及び同中村が東クレと取引関係にあったことは被告Fとの間では争いがない。
二 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
1 投資ジャーナル設立までの経緯について
Nは、昭和五一年三月ころから、京都市内で、「ツーバイツー」の名称で株式情報に関するレポートの販売や投資相談の仕事をする投資コンサルタント業を始め、同年七月には、これを株式会社組織に改めて自らその代表取締役に就任し(以下「ツーバイツー」という。)、前記レポートの販売等の営業をするほか、会員を募って会費を納入させ、その会員に株式投資に関する情報を提供するいわゆる投資顧問の営業を続けた。
昭和五三年八月ころ、株式投資に関する雑誌の出版、販売の仕事をするため、ツーバイツーの営業をKらに委ねて上京し、同年一〇月、東京都中央区日本橋蠣殻町<番地略>所在の南雲ビル二階に、投資ジャーナルを設立して、自らその代表取締役となり、月刊誌「月刊投資家」の出版、販売を始め、昭和五四年四月ころから、右雑誌の出版、販売のほか、いわゆる投資顧問の営業も始めることとし、同年八月ころ、K及びTを上京させて投資顧問の営業に当たらせた。
昭和五五年六月ころには営業不振のためツーバイツーを閉鎖し、Nは、昭和五六年六月ころ、京都に残っていたMら社員も上京させて、以後、東京を拠点として、前記雑誌の出版、販売に併わせて、社員らに相愛会その他種々の社名もしくは名称を用いた投資顧問の会を持たせて大々的に投資顧問の会員獲得に当たらせた。更に、その後、一〇倍融資や株式分譲の営業を行うため、昭和五七年三月、東京都中央区日本橋本町<番地略>所在の近甚ビルに、東証信(設立登記は昭和五八年五月。昭和五七年一二月同区日本橋茅場町<番地略>所在の岡本ビルに本店を移転。)を、昭和五七年八月、同区日本橋兜町<番地略>所在の兜町中央ビル一階に、東クレ(営業開始は同年一〇月から。昭和五八年九月同区日本橋兜町<番地略>所在の兜町第二ビルに本店を移転。)、昭和五八年一一月、同区日本橋箱崎町<番地略>所在の第五セントラルビルに、流通(営業開始は昭和五九年二月。)を次々に設立した。東証信については、K及び被告Eを、東クレについては、訴外O(以下「O」という。)及び被告Fを、流通については、Gをそれぞれ責任者として、その営業に当たらせたが、Nは、これら投資ジャーナルを中心とした各社からなる投資ジャーナルグループの会長として同グループを主宰し、投資ジャーナルグループの業務の一切を取りしきっていたものであり、また、その間、自らも関東電化工業株をはじめとする大規模かつ多種類の株式の売買を行ってきていた。
2 一〇倍融資及び株式分譲の共謀
(一) Nは、昭和五四年二、三月ころ関東電化工業株の暴落により痛手を受けたうえ、昭和五六年九月ころまたも同社株が暴落して、部下共々大きな損害を被った。そこで、Nは、一攫千金を狙うべく、効率的な資金調達手段として、当時、業界紙等に派手な広告を掲載していた一〇倍融資に着目した。
昭和五七年三月一二日ころ、N、Kらが、当時一〇倍融資を行っていたアオイリサーチオフィスを主宰する訴外横田忠雄(以下「横田」という。)と面談し、一〇倍融資を実行する際の具体的手法の説明を受けた。
そして、昭和五七年三月下旬ころ、Nは、Kらとともに、一〇倍融資を行うと称し、一般投資家から担保として保証金や保証金代用名目の株券を集めながら、実際には顧客の指示する株は購入せず、しかも預かった保証金や株券を無断で他に流用するという詐欺的商法を行うことを決意した。
(二) N、Kは昭和五七年三月下旬、タカノビル四階の投資ジャーナルにおいて、営業部班長に一〇倍融資開始を告げ、その際、東証信の営業内容が記載されたパンフレットを配布し、ホワイトボードを利用してその仕組みを説明し、各人の了解を得て、投資ジャーナルは会社ぐるみで詐欺的商法を行うことになった。
そして、顧客に対して正当な取引であるかの如く装うために虚偽の売買成立の報告をして現金や株券を受け取る窓口のための証券金融会社として、東クレ、東証信及び流通をそれぞれ設立し、Nは、昭和五七年四月からK(同年一〇月から被告E)を責任者として東証信の営業を、同年一〇月から被告Fを責任者として東クレの営業を、昭和五九年二月からGを責任者として流通の営業を開始したが、各社の営業に際し、N、Kらにおいて被告F、Gに一〇倍融資の詐欺的商法を説明し、これに協力するよう指示し、その了承を得たほか、その後投資ジャーナル、東証信、東クレ、流通に入社してきた各社員に対しても、各社の責任者や班長から右商法を教示し、これに協力することの了解を得た。
証券取引法に基づく有価証券の売買、売買の媒介・取次・代理業を行うための大蔵大臣の免許を得ることが必要であるにもかかわらず、東クレ、東証信及び流通はその免許を得ないで営業し、かつ、各社の名において「取引報告書」「預かり証」を発行し、あたかも正規の証券業者ないし証券金融業者の如く顧客を欺き右詐欺的商法を継続させた。
(三) さらに、右(一)と同時期ころ、一〇倍融資と並行して、実際には、東クレ、東証信及び流通において、顧客から株式の買付の注文があった場合にも株式は全く買い付けていなかったか、又は少なくとも総量に見合う株式を買い付けておらず、注文に応じた株式売買の取次をする意思がないのにこれを秘し、投資ジャーナルの従業員をして、顧客のために株式の売買を取り次ぐかのように装わせ、顧客から株式購入代金名下に東クレ、東証信及び流通に現金または株券を送付させるという詐欺的商法も継続させた。
(四) 右一〇倍融資を開始した約半年後の昭和五七年九月末、K、M、被告Dらが出席して開催された班長会議で、Nが東証信と東クレにおける資金調達方法を出席者に諮ったところ、訴外Hが「値上がり中の株を二、三日前の値段で分けてやるといえば、客が集まるのではないか。」などと発言すると、Nがこれに感心した態度を示し、この提案を受けて株式分譲方式を決意した。そして、班長会議の席で、分譲する株もなければ分譲する意思もないのに、顧客に対し、東クレや東証信が安い時期に買い付けた株式を、当時の価格で売却するなどと虚偽の事実を告げて、株式の購入を勧誘し、株式分譲代金名下に一般投資家から現金等を騙し取る株式分譲方式による詐欺的商法を展開することを決定し、営業部門各班長や証券金融三社の責任者らから、これに協力する旨の了解を得た。
(五) 投資ジャーナル及び証券金融三社の組織・役割について
(1) 投資ジャーナルの位置づけ
① 投資ジャーナルは、当初宣伝広告誌「月刊投資家」の発行を目的として設立されたが、その後同社は投資ジャーナルグループの中心的存在と位置づけられ、その中に営業部門と出版部門が設けられた。出版部門の中に「月刊投資家」「週刊投資家」の発行を担当する編集部があり、被告Cが編集長であった。
② また、営業部門は、昭和五七年三月ころから柱制度(後の班制度)が設けられ、昭和五八年三月ころから、営業部門が営業班と株式班とに分かれた。各営業班は、前記広告等により連絡してきた一般投資家に対し、各営業班班長が主宰する「豊かな未来の会」など投資顧問の会に入会すれば適切かつ有益な情報を得られ、確実に利益が得られるかのように虚偽の事実を告げ、投資顧問の会への入会勧誘をし、入会に応じた顧客から顧問料・年間指導料・入会金の名目で金員を交付させた。
そして、入会した顧客につき入会者カードを作成した上、これを株式班に引き継ぎ、その後、一〇倍融資や株式分譲による詐欺的商法の勧誘を行う仕組みになっていた。
③ このような、顧客からの投資顧問料や「月刊投資家」購読料収入の把握、顧客から預かった保証金や保証金名目の株券の管理は投資ジャーナルの総務部が担当し、その他、総務部では、顧客管理台帳や着金表等の台帳の整備を行なったりしたほか、投資ジャーナルグループ全体の経理決算事務等を行なっていた。
さらに、昭和五八年四月ころ、関連企業への貸付や顧客から交付された現金や株券等の入金、入券状況を把握、管理を担当する部署(通称バンキング)が総務部内に設けられたが、当時の総務部責任者はTであった。また、投資ジャーナルグループ全体の経理・決算事務には被告Bが担当し、ラックにおいて集中管理がなされる昭和五九年三月ころまでその任務に当たった。
(2) 証券金融部門
証券金融三社は、投資ジャーナルの営業班、株式班の各班により勧誘された顧客に対し、正当な取引であるかの如く装うために、売買成立した旨の虚偽の報告をして現金や株券を受け取る窓口となり、その出入りを管理しており、顧客は、証券金融三社に対して送金や株券を交付するように指示された。その際、顧客には、投資ジャーナルと証券金融三社とは何ら関連がないという虚偽の事実を告げられた。
証券金融三社のうち、東証信の責任者が被告Eであり、東クレの責任者が被告Fであった。
そして、証券金融三社が顧客から受け入れた保証金や株券を管理し、Nによる株式売買に係る株券の受渡しなどによる投資活動資金として運用していたのが、Nの妻である被告Aが主宰する部署(後のラック)であった。
三1 前記争いのない事実及び右認定事実を総合すれば、遅くとも原告福永が東証信に株券を交付した昭和五八年六月二三日以降、投資ジャーナルの従業員が、手持ち資金を担保に一〇倍まで融資してその融資金で株式を買い付けるという一〇倍融資や、既に買い入れてある株を時価より一割程度も安く譲るという株式分譲等を、全く実行するつもりがないのにこれを秘し、投資顧客を勧誘し、投資ジャーナルの営業係から連絡を受けた東クレ等の証券金融三社の係員が口裏を合わせて、融資を実行して株式の買い付けを証券会社に取り次いだり、投資ジャーナルから預かっている株式を時価より安く譲るなどと話し、投資顧客がこれに応じて資金を提供してくるや、株式の売買などしていないのに、実際に取引があったかのようにコンピュータ処理した売買報告書を送付するという手段で、顧客から年間指導料、入会金及び株式購入代金(担保)の名目で、証券金融三社に現金又は株券を送付させたものと推認することができる。
投資ジャーナルへ注文する株式は証券会社には取り次がれず、また、一割程度も安く分譲するとしている株式も投資ジャーナルに保有されておらず、投資ジャーナルを通じて、あるいは投資ジャーナルとの間の株式の取引は、いずれも現実に行われるものではなく、すべて投資ジャーナルにおける計算上のものにすぎないという事実を原告らを含む被害者ら(以下「被害者ら」という。)が承知した場合に、被害者らは現金、株券等を交付しなかったことは明らかであるから、被害者らは、投資ジャーナル及び証券金融三社の従業員による虚言を誤信して、現金、株券等を交付したものであり、また、投資ジャーナル及び証券金融三社の従業員の虚言と被害者らの現金、株券等の交付との間に因果関係があることは明らかである。
よって、投資ジャーナル及び証券金融三社の従業員による右一連の行為は、詐欺行為に該当する。
2 さらに、投資顧問の入会金、会費についても、会員に対しては一〇倍融資や株式分譲等の勧誘しかなされていないことからすれば、当初から専ら被害者らから株式売買代金を騙取するための手段とする目的で被害者らに入会を勧め、右会費の交付を受けたものであるから、騙取したと認めるべきである。
第二 原告らの金員の振込、株券の交付等について
一 原告大久保について
証拠(<略>)によれば、原告大久保が、
1 投資ジャーナルの発行する雑誌「月刊投資家」に、その主催する会の会員となれば右情報を提供する旨の広告を見て、右会員になることを決意し、昭和五九年二月三日、顧問料名目で現金五〇万円を投資ジャーナルあてに振込送金したこと、
2 投資ジャーナルの従業員である訴外J(以下「J」という。)から、投資ジャーナルが保有する株式を特別に安く譲ると勧誘され、これに応じて、昭和五九年二月八日、「三和大栄電気興業」の株式一万株、「松下電器」の株式二〇〇〇株を買うこととし、同月一〇日と一三日の二回にわたって、現金合計七七三万二六七五円を、Jの指示により東証信あてに振込送金したこと、
3 投資ジャーナルの従業員から、投資ジャーナルが保有する「三和大栄電気興業」の株式六万株を特別に安く譲るからと買い増しするよう勧誘され、これに応じて、昭和五九年二月一五日ころ、右代金として二四五〇万二二五〇円を、投資ジャーナルの従業員の指示により東証信に交付したこと、
4 投資ジャーナルの指示で買った「保土ヶ谷化学」の株価が値下がりしていたところ、投資ジャーナルの従業員から、昭和五九年三月一日ころ、投資ジャーナルが保有する「三菱金属」の株式七〇〇〇株につき、これを安く譲る、これを買えば「保土ヶ谷化学」の株式の取引による損害を取戻せるなどと勧誘され、さらに、原告大久保にその買受のための現金がないと分かるや、原告大久保に対し、株式を担保に購入資金を融資すると勧誘され、これに応じて、「千代田化工建設」の株式五〇〇〇株(時価五〇〇万円相当)を「三菱金属」株式購入代金三五三万五〇〇〇円の融資を受ける担保名目として、東証信あてに郵送したこと、
5 以上の取引のうち、原告大久保は、「松下電器」の株式二〇〇〇株(時価三六〇万円相当)について東証信から交付を受けたにすぎないこと、
がそれぞれ認められ、原告大久保は、投資ジャーナル及び東証信の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の1ないし4に対応する「金額」欄記載の現金計三二七三万四九二五円及び「千代田化工建設」株式五〇〇〇株(時価五〇〇万円相当)を騙取され、東証信から交付を受けた「松下電器」の株式二〇〇〇株(時価三六〇万円相当)を除いた金三四一三万四九二五円の損害を被ったというべきである。
二 原告今枝について
証拠(<略>)によれば、原告今枝が、
1 投資ジャーナルの従業員で、同社発行の雑誌「週刊投資家」の編集長であるYから、同社の主宰する会の会員になれば雑誌等で公表できない投資のための有利な情報を入手次第教示する旨勧誘され、これに応じて、昭和五八年一月二五日、会費名目で現金三〇万円を投資ジャーナルあてに振込送金したこと、
2 昭和五八年三月一四日、投資ジャーナルの従業員であるSから、値上がりする株式に関する情報を他の誰よりも先に教える等勧誘され、これに応じて、顧問料名目で現金二五万円を投資ジャーナルあてに振込送金したこと、
3 Sから、流通を通じ「持田製薬」の株式を安く買い入れさせて利益を得させる旨勧誘され、これに応じて、昭和五九年八月三日現金二〇〇〇万円をSに対し交付し、同月一二日同一七〇〇万円を、いずれも流通に対する右株式買受代金の支払分として、それぞれ交付したこと、
4 以上の取引の結果として、原告今枝には「持田製薬」の株式が交付されていないこと、
がそれぞれ認められ、原告今枝は、投資ジャーナル及び流通の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の5ないし8に対応する「金額」欄記載の現金計三七五五万円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
三 原告加瀬について
証拠(<略>)によれば、原告加瀬が、
1 投資顧問組織「豊かな未来の会」から昭和五八年九月ころに発送された、同会主宰の会の会員になれば他の業者よりも的確、迅速に、しかも個人投資家では入手しえないような投資に関する情報を提供する旨の入会勧誘文を記載したダイレクトメールを読んで、同会に入会する決意をし、昭和五九年二月八日、同会への入会登録費名目で三〇万円を同会あてに振込送金したこと、
2 原告加瀬が同会入会後間もなく、同会の従業員である東から、「いい銘柄がある。今買うと必ず値が上がる」と勧誘され、これに応じて、昭和五九年二月一五日、「三井製糖」の株式二万二〇〇〇株の買受代金名目で現金四〇〇万円を、同年四月二五日、「上組」の株式二〇〇〇株の買受代金名目で現金五〇万円を、いずれも東証信あてに振込送金したこと、
3 以上の取引の結果として、原告加瀬には「三井製糖」及び「上組」の株式が交付されていないこと、
がそれぞれ認められ、原告加瀬は、投資ジャーナル及び東証信の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の9ないし11に対応する「金額」欄記載の現金計四八〇万円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
四 原告金山について
証拠(<略>)によれば、
1 原告金山が、「豊かな未来の会」の「コンピューターにより膨大な情報収集・処理能力を利用し絶対のあり得ない世界で限りなく絶対に近い結論を出し抜群の的中率を誇る予想。」「世界各国の金利、外国株価、出来高はもちろん、極秘データーまでも入手し、一個人投資家では入手し得ない情報や分析結果を提供する」旨の新聞広告を読んで、同会に入会する決意をし、昭和五九年六月二九日、同会への入会金名目で一万円及び年間登録費名目で一〇万円を同会に交付したこと、
2 さらに、原告金山が、同会に入会後間もなく、同会の従業員により、流通を通じて「森永製菓」の株式を購入することができ、それが得策である旨勧誘され、これに応じて、右株式一万株を買い受け、その代金名目で流通に対し現金三八四万円を交付したこと、
3 以上の取引の結果として、原告金山には「森永製菓」の株式が交付されていないこと、
がそれぞれ認められ、原告金山は、投資ジャーナル及び流通の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の12及び13に対応する「金額」欄記載の現金計三九五万円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
五 原告髙橋について
証拠(<略>)によれば、原告髙橋が
1 昭和五九年六月ころ、投資ジャーナルの従業員である杉下から、電話で、「新薬開発によって、香港筋が買いに入っている。暴騰する株式銘柄を教える。」と申し向けられ、同グループの主宰する会の会員になれば暴騰する銘柄を教えるからと勧誘され、同会に入会する決意をし、同年七月七日、右入会金名目で現金四万円を、杉下の指示により投資ジャーナルあてに振込送金したこと、
2 昭和五九年七月一一日ころ、投資ジャーナルの従業員斉木某より、「神戸生糸が上がるが、安く仕込んであるからこれを三二五円で二〇〇〇株分譲してあげる。その代金、諸費用として七〇万円振り込んで欲しい」と「神戸生糸」の株式を購入するよう勧誘され、これに応じて、右株式二〇〇〇株を購入することとし、同月一三日、斉木の指示に従いその買受代金名目で現金七〇万円を流通あてに振込送金したこと、
3 その数日後、杉下より、「大平洋金属の値が上がる。現在三二五円位しているが、安い時に仕込んであるので二九七円で譲るがどうか。」と「大平洋金属」の株式を購入するよう勧誘され、これに応じて、右株式三〇〇〇株を購入することとし、昭和五九年七月一六日、杉下の指示に従いその買受代金名目で現金九〇万三〇〇〇円を流通あてに振込送金したこと、
4 以上の取引の結果として、原告髙橋には「神戸生糸」及び「大平洋金属」の株式が交付されていないこと、がそれぞれ認められ、原告髙橋は、投資ジャーナル及び流通の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の14ないし16に対応する「金額」欄記載の現金計一六四万三〇〇〇円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
六 原告竹尾について
証拠(<略>)によれば、原告竹尾が、
1 昭和五九年六月二八日、「豊かな未来の会」の新聞広告を読んで同会に入会する決意をし、同年七月二一日、入会金名目で一万円及び年間登録費名目で一〇万円の合計一一万円を、同会あてに振込送金したこと、
2 さらに、昭和五九年七月末ころ、「豊かな未来の会」の従業員である鬼頭から、「日本証券流通に、あなたに売却できる森永製菓の株式が三〇〇〇株あるので、これをあなたに売却してあげる。この森永製菓の株価は必ず上昇する。」旨勧誘され、これに応じて、右株式二〇〇〇株を購入することとし、同月三〇日、その代金名目で現金一〇七万円を流通あてに振込送金したこと、
3 以上の取引の結果として、原告竹尾には「森永製菓」の株式が交付されていないこと、
がそれぞれ認められ、原告竹尾は、投資ジャーナル及び流通の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の17及び18に対応する「金額」欄記載の現金計一一八万円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
七 原告中村について
証拠(<略>)によれば、
1 原告中村は、昭和五八年一一月ころ、投資ジャーナルの従業員である牧野某(以下「牧野」という。)より「安い株式を譲ってあげるので、投資ジャーナル友の会に入会しませんか」と勧誘され、これに応じて入会することとし、原告中村は、昭和五八年一一月二九日、入会金名目で三〇万円を投資ジャーナルあてに振込送金した。
2 その後、原告中村は、牧野から「図書印刷」銘柄の株式購入を勧誘され、これに応じて、「図書印刷」株式を売買単価一二九八円で、投資ジャーナルの持株から一万株買い受けることとし、代金等として三〇〇万円を東証信に振り込むよう指示され、昭和五八年一二月二日、株式買受代金名目で三〇〇万円を東証信あてに振込送金した。
この株式については、昭和五九年三月一日に売却指示を受け、売買報告書上は、四五〇万六三〇〇円の受入金額があったことになっている。
3(一) 昭和五九年三月一日、牧野から「日産農林興業という銘柄を買いましょう、値上りしますよ」といわれたため、原告中村は、東証信の従業員である米川某(以下「米川」という。)に連絡し、日産農林興業を単価三八六円で一万株買い付けることを要請し、売買報告書上は、購入金額は三九〇万一六七〇円となっている。
(二) 昭和五九年三月一五日、牧野から「日本高周波鋼業を買いましょう」との連絡が入り、同日、東証信を通して日本高周波鋼業五〇〇〇株を単価二二六円、計一一四万三八六五円で買い付けた。
(三) ところで、この(一)と(二)の買い付けの結果、前記2の受入金額四五〇万六三〇〇円より、(一)、(二)の購入代金に充当した結果、五三万九二三五円の不足金が発生した形となったので、米川から「不足金が五三万円程でていますので送金して下さい」といわれ、原告中村は、昭和五九年三月一五日、五三万円を東証信あてに振込送金した。
4(一) さらに、昭和五九年三月三〇日、牧野から「日産農林興業の株式を売却して、住友セメントの株式を二万株買いましょう」と勧誘され、日産農林興業の株式を売却して、住友セメントの株式を二万株買うことにした。売買報告書上は、昭和五九年三月三〇日、日産農林興業株式を売却し、三二二万五八〇〇円の受入金額があることになっており、一方、同日買付けの住友セメントを計金三六五万九三九〇円で購入したことになっている。
(二) 右(一)の日産農林興業の株式売却代金で住友セメントの株式を買った結果、四三万三五九〇円の不足がでている形となったため、米川から不足金を振り込むようにいわれ、原告中村は、昭和五九年四月二日、四三万三五九〇円を東証信あてに振込送金した。
(三) その後、牧野から「住友セメントを売って東京鉄鋼を一万株買いましょう」と勧誘され、これに応じることにした。売買報告書によれば、昭和五九年四月六日に住友セメントを売却して三四八万一九〇〇円の受入金額があり、又同日に東京鉄鋼株の買付を三三五万八五五九円でしていることになっていた。
5 一方、昭和五九年二月初旬、「月刊投資家」に広告を出していた「レディース・カルチャーストック」のL(以下「L」という。)から「入会金を一〇万円送って下さい。責任をもって良い銘柄をお世話します」と勧誘された。原告中村は、投資情報を得ようと考えて入会することとし、昭和五九年二月一〇日、入会金名目で一〇万円をレディース・カルチャーストックあてに振込送金した。
6(一) 右送金後、Lから「立飛企業を買いましょう。持っている株式を分けてあげます。東京クレジットに二〇〇万円を送金して下さい。」と勧誘され、これに応じることにし、昭和五九年二月一三日、二〇〇万円を東クレあてに振込送金した。取引計算報告書によれば、昭和五九年二月一三日、一八三万一〇〇五円で立飛企業の株一〇〇〇株を買い付けたことになっている。そして、新聞を見たところ、立飛企業に利益がでていたため、原告中村は東クレに右立飛企業の株売却を依頼し、その結果、東クレの取引報告書によれば、二三五万九六〇〇円の受入金額の報告となっていた。
(二) 同年二月一六日に、Lから「今後一年間、良い銘柄を言っていくので、特別会員入会金を出してほしい」と勧誘され、立飛企業で利益がでたことから入会することにし、同日、特別入会金名目で五〇万円をレディース・カルチャーストックあてに振込送金した。
(三) その後、Lより、「日本鉱業を一万株買いましょう」と勧誘され、日本鉱業を一万株買うことにした。東クレの取引計算報告書によれば、日本鉱業株一万株を四三四万五八五〇円にて買い付けたことになっている。
(四) 右(三)の購入代金は、(一)の立飛企業の株式の売却代金等を充てたことになっているが、東クレの従業員から、不足金が一七〇万円程であるので送金してほしいといわれ、原告中村は、昭和五九年四月四日、一七〇万円を東クレあてに振込送金した。
7 その後、投資ジャーナルの商法が詐欺的である旨の報道がされはじめため、原告中村は東クレに赴き、株式の現物を渡す旨求めた。これに応対した被告Fは、「原告中村の購入資金がまだ一一万七二五五円未入金となっているので、それを送金してもらえば株券を送ります」旨説明した。原告中村は、これを送金すれば現物株を送ってもらえると考えて、昭和五九年六月二七日、一一万七二五五円を東クレあてに振込送金した。
8 東証信の従業員であるゴトウ某(以下「ゴトウ」という。)から、流通の社長は知り合いであり、流通での取引を勧められ、そこで大平洋金属の株式一万株の購入を勧誘され、これに応じることとし、原告中村は、昭和五九年七月二四日、株式買付代金名目で三四〇万円を流通あてに送金した。
9 以上の取引の結果として、原告中村には一銘柄の株式も交付されていない。
以上のとおり、原告中村は、投資ジャーナル及び証券金融三社の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の19ないし28に対応する「金額」欄記載の別表記載のとおり、いずれも現金計一二〇八万〇八四五円を騙取され、同額の損害を被ったというべきである。
八 原告福永について
証拠(<略>)によれば、原告福永が、
1 投資ジャーナルの従業員より、昭和五七年ころから再三にわたり、同社は特別な情報を入手できるので、その推せんする株式の売買をすれば確実に利益が得られる、株式取引のための資金は東証信というしっかりした会社を紹介するが、東証信は株式を担保にその株価の一〇倍まで融資してくれる旨申し向け、右推せんを受けるための顧問料の支払方及び株式買付資金借入のための担保提供方を勧誘されたこと、
2 投資ジャーナルの主催する会の会員となれば、右情報を提供する旨の「月刊投資家」に掲載された広告にも影響され、右勧誘に応じて、東証信に対し、株式買付資金の借入金の担保名目で、昭和五八年六月二三日に住友金属鉱山株式会社の株式一〇〇〇株(時価一八五万円相当)、同年七月二二日に同株式四〇〇〇株(時価七四〇万円相当)、同年一一月二一日に現金五〇万円をそれぞれ交付し、顧問料名目で、同年七月二八日と同年一一月二一日に現金各五〇万円を投資ジャーナルに対して交付したこと、
3 一方、東証信から、昭和五八年七月二八日に一二一万九四四五円、同五九年七月五日に二〇万円、同月六日に四〇万円、同月七日に四〇万円、同年八月二日に一〇万円の合計二三一万九四四五円の支払を受けたことは当事者間で争いがないこと、
がそれぞれ認められ、原告福永は、投資ジャーナル及び東証信の従業員による詐欺行為により、別紙一覧表「取引No.」欄記載の29ないし33に対応する「金額」欄記載の現金計一五〇万円を支払い、住友金属鉱山株式会社の株式計五〇〇〇株(時価相当額計九二五万円)を騙取され、東証信から受けた支払分二三一万九四四五円を除いた八四三万〇五五五円の損害を被ったというべきである。
第三 被告らの本件における責任について
一 被告Aについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴(東証信設立まで)
被告Aは昭和五二年六月ころNと知り合い、昭和五三年五月にNと婚姻した。昭和五二年九月ころにはNが経営するツーバイツーで働くようになり、さらに同年一二月には証券外務員の資格を取得して高木貞証券へ入社し、Nやツーバイツーの会員からの注文を株式市場へつなぐようになった。昭和五三年一〇月にはNと共に上京し、昭和五五年一〇月ころから投資ジャーナルにおいて、Nの売買する株式やその代金の受渡しの管理とその売買代金の資金調達のため証券金融会社との交渉事務を担当した。
(二) 被告AがNの売買する株式やその代金の受渡しの管理する方法は、昭和五五年一〇月に本拠を東京に移した後も、引き続き昭和五五年一一月から昭和五六年二月まではNとの間で株売買代金の受渡しをしていたが、昭和五六年二月以降は永代信用組合日本橋支店にN名義と被告A名義の普通口座を作り、金銭の管理をするとともに被告A自身が証券会社等の間で株券や現金の受け渡しをするというものであった。
(三) 昭和五七年二月、東証信が近甚ビルに設立された際及び同年一二月に岡本ビルに移転した際、被告Aと訴外P(以下「P」という。)は、東証信事務所内に席を置き、そこでNの売買する株式やその代金の受渡しの管理をしていた。
被告Aは、昭和五七年三月から五月ころまでの間に、東証信の伝票類の様式の原案を作成したり、女子従業員を教育したりした。そして、東証信の注文により買い付けられた株券は、被告Aが受け取って管理し、顧客の指示と関係なく値動きを見ながら被告Aの判断で売却していた。
また、被告Aは、東証信の繁忙時には顧客に一〇倍融資の説明をしたり、顧客からの注文を受けていた。
(四) 被告Aは、Nらが一〇倍融資を導入した昭和五七年三月ころ、①投資ジャーナルには一割の保証金しかとらないで顧客にその一〇倍の株式貸付金を融資できる資金的余裕がなく、顧客に融資する場合の利息と投資ジャーナルが証券金融会社から借り入れる場合の利息は逆ざやになっており、経費負担も考慮すると利益が出るはずがないことから、商売としては絶対に成り立たないこと、②Kや訴外Qは電話で顧客から買い注文を受けていながら、証券会社に取次をしていないことがあり、Kは、Nの売買株の株価をクイックビデオ(株式市場での取引状況・取引値段をリアルタイムに知る事が出来る機械)で調べていることがあったこと、③東証信の営業開始一か月後くらいから、東証信の買い付けた株の受け渡しを訴外Rがしなくなり、東証信名義の口座を見てみると、N自身の売買しかないと思えたこと、をそれぞれ認識していた。
(五) また、昭和五八年一月ころには、被告AとTが、従業員らが株式分譲により顧客から金員を集めていることについて話し合い、被告Aは、分譲価額が非常に安いことについて疑問を呈していた。
(六) さらに、昭和五七年四月ころ、東証信が営業を開始すると、顧客が一〇倍融資の担保などとして東証信に預託した株券・金銭の入出庫・入出金のみならず、顧客の注文の内容(買付け・売却・その精算)も帳簿へ記帳して残す必要が生じたことから、被告Aは、同年七月以降、投資ジャーナルの顧客が東証信へ預けた株券や金銭等を入出金状況が一目でわかる「着金表」を作成した。
右「着金表」については、被告AとK(後にE)が閲読して決済をしていた。
(七) 昭和五八年六月ころ、被告Aは、Nの売買する株式やその代金の受渡しの管理を東証信から独立した場所で行うため、茅場町の日原ビル四階を借りて「ラック」という名称で事務所を開いた。
ラックは、右(二)(六)記載の被告Aが果たしていた二つの重要な役割を遂行するための部署であり、昭和五九年三月以降は、一〇倍融資におけるクイックビデオを使用した値決め(現実に売買注文を出され、それによって成立した値段の報告を受けているように仮装するため、投資ジャーナル及び証券金融三社内で架空の売買成立値段を捏造すること)もラックで行われるようになった。
さらに、昭和五九年三月ころから、ラックにおいて東証信等の証券金融三社の顧客から預かった顧客株(顧客からの預かり株券の処分と返還要求に対する株券調達)と戻り株(顧客の返還要求のために調達したものの、返還せずに済むことになって証券金融会社から戻ってきた株券)を集中管理するようになった。
(八) 昭和五八年九月ころ、被告Aは、樽見に東証信からの注文をクイックビデオで値段を見て報告する事務をラック内でやるようにと指示した。
昭和五九年三月ころ、ラックに来客中、訴外U(以下「U」という。)がクイックビデオで値決めした結果を東証信に電話で回答していたところ、被告Aが来客中は東証信への電話報告は一切やらないように指示し、その後も被告Aは来客中にUに向かって両手で×印を作って東証信に対する電話報告をしないように合図をしたことがあった。
(九) Nは、昭和五八年九月ころ、被告Aと訴外V(以下「V」という。)に対し、日本証券流通の社名で金融会社を作るので、その設立準備を指示した。その後、被告Aは、Vとの流通設立のための打ち合わせの際、新会社は東証信や東クレと同様の仕事内容とする会社と説明した。
流通の営業開始直前の昭和五九年二月ころ、Gが被告Aに対し、融資する場合や株式分譲の株を客が売りに出す場合、単なる売買注文の場合に、流通としてはどの証券会社に注文を出したらよいかを聞いたところ、被告Aは流通は証券会社には取り次ぐ必要はなく、顧客の注文があったらGがクイックビデオで値決めをして、それで売買伝票を起こし、毎日の売買の集計をしてラックに知らせるよう指示した。
(一〇) その他、被告Aが当時居住していたマンションの賃料(当時月額約五〇万円)や、昭和五八年の四月か五月に購入された被告A専用車の購入代金、その他諸経費は投資ジャーナルから支払われており、それに加えて被告A自身、Nとは別に投資ジャーナルから給与として月額八〇万円の支払を受けていた。
2 被告Aの責任
以上の事実からすれば、被告Aにおいて、一〇倍融資については被害者らの注文を取り次いでいないことを、また、株式分譲についてはその株券を投資ジャーナルが保有するかどうかに関係なく行われていることをそれぞれ十分認識し、投資ジャーナルグループがグループ全体で組織的に詐欺行為に及んでいたことを認識していたばかりか、自らも顧客に一〇倍融資の説明をしたり、顧客からの注文を受けるなどしていた。
また、被告Aは、Nの株式の売買の資金が、被害者らから騙取した現金や株券であることを認識した上で運用し、昭和五九年三月ころから、ラックにおいて東証信等の証券金融三社の顧客から預かった顧客株と戻り株を管理し、投資ジャーナルグループの詐欺行為が表面化しないための偽装工作に関与していたこと、投資ジャーナルグループが被害者らから騙取した金員、株券から多額の報酬やマンションの賃料等の利益に与っていたのであるから、被告Aは、Nらと共同して前記詐欺行為をしたものということができ、原告らの全損害について賠償すべき義務があるというべきである。
二 被告Bについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴
被告Bは、昭和五一年九月ころツーバイツーに入社し、昭和五二年四月ころから正社員となり、昭和五三年春から決算の業務に携わるようになった。昭和五十五、六年ころから、投資ジャーナルや「月刊投資家」の諸経費の経理についても、決算の業務を通じて関与するようになった。昭和五六年には出産前の被告Aの補助として被告Aと共にNの売買する株式やその代金の受渡しの管理の受け渡しを行っていた。
(二) 被告Bは投資ジャーナルの総務部に属し、総務部では、前記第一の二2(五)(1)③のとおり、顧客管理台帳や着金表等の台帳を整備し、顧客からの投資顧問料や「月刊投資家」購読料収入の把握事務や顧客から預かった保証金や保証金名目の株券の管理を行なったりしたほか、投資ジャーナルグループ全体の経理決算事務等を行なっていた。
昭和五七年一〇月以降、投資ジャーナルの経費を、全体で負担する分(全体戦略費)と営業担当者(班)が負担する分とに区分けするとともに、会計処理のコンピューター化された際、被告Bは、Tから、戦略費をコンピューターに呼び出し符号を付けて入力し、その符号を呼び出せば即座に戦略費が打ち出されるようにするよう指示され、この指示に従って会計管理をした。
(三) 東クレ設立の際、被告Bは、東証信の事務伝票や書類に不備があるとして東クレの書式は自分が作成する旨申し出て、いわゆる顧客管理台帳(現金出納欄、顧客からの預かり株式一覧表、顧客に対する融資買付株式増減表、預かり株式評価計算書、顧客が保有している銘柄一覧表、銘柄別一覧表等)を新しく作成し、それを使用することになった。また、被告Bは、東クレの業務を開始するにあたり、顧客に送付する取引計算報告書や預り証の用紙などを用意した。
また、被告Bは東クレの営業開始にあたり、東クレの預金通帳を決算時に金銭出納帳代わりに使用するため、顧客が直接持参した現金も一旦口座に顧客名義で振り込んで欲しい旨被告Fに依頼し、被告Fは実際にそのとおりにしていた。
(四) さらに、昭和五八年四月ころ、関連企業への貸付や顧客から騙取した現金や株券等の入金、入券状況を把握、管理を担当する部署(通称バンキング)が総務部内に設置され、総務部責任者にはTが、経理には被告Bがそれぞれ担当し、ラックにおいて集中管理がなされる昭和五九年四月ころまでその任務に当たっていた。
(五) その他、被告Bは、京都のツーバイツーのころからNの下で働き、Nらの信頼も厚く、昭和五九年八月二四日、投資ジャーナルに対して警察による捜索がなされた後も、投資ジャーナルが不渡り手形を出さないよう現金の集金や受け渡しなどをしている。
以上の事実がそれぞれ認められ、これに反する被告Bの本人尋問の結果は内容自体があいまいで、かつ根拠の説明が乏しいものであり、到底信用することができない。
2 被告Bの責任
これらの事実からすれば、被告B自身、東クレでも東証信で行われていた一〇倍融資を行うことをその開業前から承知し、投資ジャーナルの従業員らが分譲する株は保有しないのに分譲と称して顧客から金員を集めることに腐心していることを十分承知する機会があったと推認できる。また、株式分譲についても、分譲開始後の早い時期(遅くとも原告福永が東証信と取引を開始する昭和五八年六月二三日以前)に、投資ジャーナルで顧客に大々的に分譲を行っていること、その分譲は、一〇倍融資同様、実際には顧客に投資ジャーナルの保有株を譲渡する訳ではないのに、安い株価で保有株を譲渡するということで金員を集めるものであることを十分認識していたことは明らかであるというべきである。
さらに、被告Bは、投資ジャーナルグループが詐欺行為を継続して遂行する上で不可欠な投資ジャーナルグループ全体の経理決算事務等を行うについて中心的立場にあったと認められる。
そして、被告Bは、投資ジャーナルグループが被害者らから騙取した現金や株券であることを認識した上で現金や株券を管理することにより、投資ジャーナルグループの詐欺行為が表面化しないための偽装工作に関与していたのであるから、被告Bは、Nらと共同して前記詐欺行為をしたものということができ、原告らの全損害について賠償すべき義務があるというべきである。
三 被告Cについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴
被告Cは、昭和五二年ころツーバイツーに入社し、会員に対し発行するレポートの原稿整理、発送等や証券会社等からの資料を参考にした記事の執筆等を行うとともに、自分でも営業をしたことがあった。
昭和五三年に東京において投資ジャーナルが設立されると、被告Cは、訴外小木曽某(以下「小木曽」という。)と共に編集責任者となって「月刊投資家」を発行するようになった。その後も昭和五九年八月、投資ジャーナルに対する警視庁の摘発があるまで「月刊投資家」の編集責任者として同雑誌の編集業務に携わっていた。
(二) 「月刊投資家」は投資家向けの雑誌で、N、被告C、投資ジャーナルの営業班各班長で構成する編集会議で編集が行われ、印刷費は投資ジャーナルの全体戦略費から支出された。「月刊投資家」には大量の広告及び広告記事が掲載されており、その大半が投資ジャーナルの営業及び株式班と証券金融三社の広告であり、広告記事とアンケート葉書が多数含まれている。そして、Nが編集会議の席上で各班長に対し「月刊投資家」に掲載を希望する広告を申請するよう要求していた。
昭和五七年四月に発行された「月刊投資家」五月号において、一〇倍融資を謳う広告が掲載されているが、昭和五六年九月ころ関東電化工業株が暴落して、投資ジャーナルは大きな損害を被り、昭和五七年四月当時はまだその影響から回復できない状況であり、顧客に一〇倍融資ができるという状況ではなかった。
しかし、「月刊投資家」の広告により、投資ジャーナルに連絡をしてきた顧客を投資顧問の会に入会させ、この入会者に対して一〇倍融資や株式分譲の勧誘行為がなされた。
(三) 「月刊投資家」の編集会議と営業班班長会議は、休憩をはさんで前後して開催されることが多く、編集会議でも新会社設立についても話し合われていた。被告Cも出席していた昭和五七年七月の編集会議では東クレの設立が話題となった。
(四) 投資ジャーナルで毎日行われていた朝礼で、Nらは営業員らにノルマ必達の督励をしていた。また、朝礼の場にはホワイトボードが設置され、そこには営業班毎に顧問料や保証金、株式売買代金のノルマの達成状況、分譲したことにする株式の銘柄、株数、単価等が記載されていた。そして、被告Cも投資ジャーナルの朝礼に出ていた。
(五) さらに、Nが一〇倍融資の手法を横田から説明を受けた後である昭和五七年三月にセンターホテルで開催された会議に被告Cも出席し、その席上、Nから柱制度(後の班長制度)が提案された。その他、被告CはNの指示があると営業班班長会議や緊急幹部会議に出席しており、報奨金制度が話題となった昭和五八年九月中旬開催の緊急幹部会議にも出席していた。
以上の事実がそれぞれ認められ、これに反する被告Cの本人尋問の結果は内容自体があいまいで、かつ根拠の説明が乏しいものであり、到底信用することができない。
2 被告Cの責任
(一) 不法行為責任
(1) 前記認定事実によれば、被告Cは、投資ジャーナルが当時、顧客に一〇倍融資ができるという状況でなかったことを十分認識し得る立場にあり、一〇倍融資開始当初から、顧客からの注文はそのほとんどを証券会社に取り次いでいないことを十分承知していたことが推認できる。
また、株式分譲についても、被告Cは、朝礼の際、あるいはNとの事務連絡等の際に、営業員らが執務する部屋に度々出入りし、そのような機会に、同室に設置されているホワイトボードの記載を見たり、朝礼の際にNらが営業員らにノルマ必達の督励をするのを目撃したりするなどにより、投資ジャーナルで株式分譲が大掛かりに行われていることを十分承知し得たことは明らかである。
したがって、被告Cは、株式分譲開始後の早い時期(遅くとも原告福永が東証信と取引を開始する昭和五八年六月二三日以前)に、投資ジャーナルが顧客に対し大々的に株式分譲を行っていること、その株式分譲は、一〇倍融資同様、実際には顧客に投資ジャーナルの保有株を譲渡するわけではないのに、安い株価で保有株を譲渡するということで金員を集めるものであることを十分認識していたことは明らかである。
さらにまた、被告Cは、「月刊投資家」の編集長として、「月刊投資家」の発行が一〇倍融資や株式分譲の機縁となることは十分認識していたと認められる。
右認定事実に照らし、出版部門は、営業部門とは別ビルに配置され、被告Cは営業部門には一切関与せず、編集事務に専念していたのであり、昭和五九年四月の時点まで投資ジャーナルで顧客に株式分譲を行っていることは知らなかったなどとする被告Cの供述が到底措信できないものであることは明らかである。
(2) もっとも、被告Cが投資ジャーナルの営業部門に対して実質的な権限を有しておらず、営業部門の業務に関与していたことまでは認められず、本件原告らとの関係で、N、Kらの意思形成に関与する役割を担っていたものとは認められない。「月刊投資家」に掲載した広告が投資ジャーナルグループの詐欺的商法の契機となったとしても、広告はNが選択し集めたものについてはすべて掲載するようにNから指示されており、被告Cには広告掲載の許否を決定する権限がなかったこと、原稿について編集部がなしうるのは、誤字・脱字等があれば広告先に訂正してもらう程度のものに過ぎないこと、その他、被告Cの投資ジャーナルグループにおける地位、役割、仕事内容からして、この点について共同不法行為が成立するということはできない。
よって、原告らの被告Cに対する共同不法行為に関する主張は理由がない。
(二) 取締役としての責任
原告らは、被告Cが投資ジャーナル及び日本事務代行の取締役であり、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして、商法二六六条の三による責任を負うべき旨主張するのでこの点につき検討する。
(1) 原告らと投資ジャーナルグループとの本件取引期間中、被告Cが日本事務代行の取締役として商業登記簿に登記されていることは弁論の全趣旨により認められるが、日本事務代行が原告らに対し違法行為をなしたと認めるに足りる証拠はない。
(2)① 次に、被告Cが、昭和五四年七月七日から同五七年一二月三一日までの間、投資ジャーナルの取締役であったこと(昭和五四年七月七日から同五六年四月三〇日までの間は代表取締役に就任していた)及び同五七年一二月三一日に退任したが、同五八年一二月二九日に投資ジャーナルの取締役に再び就任したことは当事者間に争いがない。
証拠(<略>)によれば、昭和五七年一二月三一日付けで被告Cを含む当時の取締役全員と監査役が退任し、同日から同五八年一二月二九日まで投資ジャーナルにおいては後任の取締役が選任されない状態が続き、右退任の登記は、同日就任した後任の取締役等の登記がされた同五九年一月一二日までなされないままにおかれた事実が認められるが、被告Cは、商法二五八条一項により退任後も取締役の権利義務を有する地位にあったし、その後、さらに同五八年一二月二九日に取締役に就任し、結局、本件取引当時も取締役であった。
したがって、被告Cは、投資ジャーナルに対して、代表取締役の業務執行全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め、又は自らこれを招集し、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるように監視すべき職責を負っていたものである。
② そこで、被告Cの右監視義務違反の有無について検討する。
前記認定のとおり、被告Cは投資ジャーナル編集部において「月刊投資家」編集長として編集業務に携わっていたものであり、業務執行の意思決定に直接関与した事実は認められない。
しかし、被告Cは、投資ジャーナルの営業班員が一〇倍融資や株式分譲等の勧誘行為を行っていたことを十分認識し得たこと、投資ジャーナルには融資する資金もなければ分譲する株式を有していないことを認識していたこと、「月刊投資家」の編集会議や投資ジャーナルグループの幹部会議の実体を備えた会議に被告Cは出席していたこと、京都のツーバイツーのころからNの下で働き、N、Kとの関係が長かったことなどからすれば、被告Cが取締役会の招集を求めたり、又は自ら招集したりして取締役としての監視義務を果たすことは十分に可能だったといえる。
そうすると、被告Cが取締役としての職務の執行を怠り、しかも何らなすところなく、前記のような投資ジャーナルの違法業務を放置していた点に重大な過失があった認められるので、被告Cは、原告らが、投資ジャーナル従業員の勧誘で取引によって被った損害については、損害賠償の責任を免れないというべきである。
③ 被告Cは、投資ジャーナルの名目上の取締役にすぎないと主張するが、被告Cは、投資ジャーナルの編集部門の総括者として対外的にも責任ある役員としての地位についていたのであり、役員登記等の上だけの単なる名義貸人ではなかったものであるから、いわゆる名目上の取締役に留まるものとはいえない。
(3) 以上からすれば、被告Cは、投資ジャーナル従業員の勧誘により交付された現金、株式の時価相当額について責任を負うものというべきである。
なお、レディース・カルチャーストックは、株式買付代金を証券金融三社に交付する旨指示していることや、「月刊投資家」に広告を載せていたことなどから判断すると、投資ジャーナル営業班の主催する投資顧問の組織であると推認することができるので、レディース・カルチャーストックの従業員による営業活動は、投資ジャーナルにおける前記詐欺行為の一環としてなされたものであると認められ、被告Cは、Lの指示により生じた損害についても、投資ジャーナルの取締役としての責任を負うものというべきである。
(4) 以上より、被告Cは、投資ジャーナル従業員の勧誘により交付された現金、株式の時価相当額について責任を負うものというべきであり、別紙一覧表のうち、東証信の従業員である米川、ゴトウ及び被告Fの勧誘による「取引NO.」欄記載の24ないし28の各取引により生じた損害を除いたその余の取引(「取引NO.」欄記載の1ないし23、29ないし33)により生じた損害について、被告Cは賠償する義務がある。
四 被告Dについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴
被告Dは、昭和四九年三月日本大学法学部を卒業し、偕成証券株式会社に入社して営業員として勤務したが、昭和五二年三月ころ同社を辞め、昭和五四年八月投資ジャーナルに入り、営業部に所属して同社発行の「月刊投資家」や「グリーンウィークリー」の購読勧誘を行った。また、昭和五六年一一月下旬、Nの指示に従い、資金稼ぎのために科学技術開発振興協会の名称による科学ビデオの製作、販売等の仕事に従事したが赤字状態が続き、昭和五七年二月にこの事業は中止となった。昭和五七年三月からは柱の一人となって積極的にその営業に従事し、昭和五八年三月に従来の営業班が株式班と営業班に分かれてからは株式班の班長を務めてきた。
(二) N、Kが昭和五七年三月下旬に投資ジャーナルにおいて一〇倍融資の開始を告げた際、被告Dはその場に居合わせていたが、当時関東電化工業株の暴落により巨額の経済的損失を被った投資ジャーナルグループに余裕資金がないことを知っており、Nが命じた一〇倍融資が顧客の注文を証券会社に取り次がずに保証金を騙取する詐欺的商法であることを確信した。
(三) その後、同月下旬、N、Kらは横田と面談して一〇倍融資の具体的手法の説明を受けたが、その際、横田は、一〇倍融資では顧客からの注文を証券会社に取り次がないことを当然のこととして話し、将来そのことを巡って顧客との間で紛議が生じた際にうまくいい逃れるためには、約諾書にいわゆる相対売買条項を入れておくことが重要であることを話しており、被告Dもその場に居合わせていた。
(四) 同年四月上旬、Kからも一〇倍融資の説明があり、被告Dは「東証信は、半官半民の会社であるとか金利が安いといって顧客を勧誘するように」と指示され、さらに「吉岡課長」という偽名を用いるように指示された。
(五) 昭和五七年一〇月ころ、Nは、投資ジャーナルが安く購入して保有している株を時価より安く売却すると称して、顧客に株式購入代金を東証信や東クレに入金させ、株式分譲を遂行するよう営業部班長に指示したが、被告Dは投資ジャーナルが分譲する株式を保有せず、株式購入代金名目で金員を騙取するものにすぎない詐欺的商法であることを知っていた。その一か月ほど後には、Nは、証券市場での取引が少なく万一顧客から株券の返還を求められたときに調達が難しく、また値上がりする危険性のある銘柄以外を、営業担当者の裁量でどんどん顧客に売りつけて株代金を騙取するよう被告Dを含む営業班班長に対して指示した。
2 被告Dの責任
(一) 不法行為責任
前記認定事実によれば、被告Dは、一〇倍融資については被害者らの注文を取り次いでいないことを、また、株式分譲についてはその株券を投資ジャーナルが保有するかどうかに関係なく行われていることを、それぞれ十分認識していたことは明らかである。しかしながら、
(1) Nは、他の営業員らに対して、自分がいないときはMの指示に従うよう指示するなどのことがあったが、被告Dの指示に従うよう指示したことは認められないこと、
(2) 被告Dが、D班以外の班の営業員が提出した顧客紹介票に記載されている株価、約定日等、顧客紹介票の内容を確認する機会があったとは認められないこと、
(3) 各班のいわゆるノルマの貸し借りの調整をするのはMの役割であり、Dがこれを担当した事実は認められないこと、
(4) 特にNが出社しない折に、営業のいわゆる例会などでは、これを主宰し、各班の営業員らに数字を挙げてノルマの達成を督励し、指示したのはMであり、被告Dはこのような指示をしたことは認められないこと、
(5) 昭和五九年三月初めから連日開かれたいわゆる出金会議では、全体を代表する立場でこの会議に出席したのはMであり、被告Dは営業班の班長の一人として出席したにすぎないこと、等の事実が認められ、これらの事実からすれば、営業班全体の責任者はMであり、被告Dは営業班全体の責任者とまではいえず、被告D自身又は被告Dの部下であるD班の班員が直接関係した事実については、被告DにNらとの共謀による共同不法行為が認められるとしても、その他の被告D又は被告D班の班員が直接関係しない事実については、被告Dの投資ジャーナルグループにおける地位、役割、仕事内容からして、共同不法行為が成立するということはできない。
(二) 取締役としての責任
原告らは、被告Dが日本ビデオソフトの代表取締役、東証信及びインダストジャパンの取締役であり、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして、商法二六六条の三による責任を負うべき旨主張する。
しかしながら、被告Dが日本ビデオソフトの代表取締役、東証信及びインダストジャパンの取締役と認めるに足りる証拠はなく、その旨商業登記簿に登記されていない。
(三) 以上より、原告らの被告Dに対する請求はいずれも理由がなく、これを認めることはできない。
五 被告Eについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴
被告Eは、昭和三六年三月明治大学商学部を卒業し、大和証券株式会社に営業部員として勤務したが、昭和四三年九月ころ同社を辞め、その後自ら家庭電化製品を販売する会社を経営したり、また、昭和五三年二月ころからは都内の投資顧問の会社を転々として勤務したりした後、昭和五五年九月ころ相愛会に入社し、同社で投資顧問の会員獲得の仕事をし、更に、昭和五七年一月ころから投資ジャーナルに移って営業の仕事をするようになり、同年七月にはその柱(班長)の一人となったが、同年一〇月ころ東証信へ移り、同社の営業部長として、同社の営業全般についての責任者の立場にあった。
(二) 前記第一の二2(二)のとおり、N、Kが昭和五七年三月下旬に投資ジャーナルにおいて一〇倍融資の開始を告げた際、被告Eはその場に居り、当時関東電化工業株の暴落により巨額の経済的損失を被った投資ジャーナルグループに余裕資金がないことを知っており、一〇倍融資が顧客に多額の投資資金をわずか一〇パーセントの担保で貸し付けするという、投資家にとっては極めて魅力的な制度を謳い、保証金名目の金集めをする目的であったことを、Eは遅くとも昭和五七年秋ころには十分認識していた。
(三) 東証信では、従業員を指揮して顧客紹介表等により、顧客からの保証金の入金予定を知らせるとともに、顧客からの一〇倍融資の問い合わせに備えさせ、顧客からの振込送金があると、その当日の夕方、顧客ごとの入金額(株券の場合は当日の終値で評価)等を一覧にした「着金表」にこれを記載させ、投資ジャーナルの総務部と営業部に送付させた。被告Eの東証信における仕事の一つは、顧客からの注文についてクイックビデオを使って仮装売買の値決めをし、台帳に書き込むことであった。
(四) また、株式分譲についても、被告Eは、東証信の責任者として、毎日、投資ジャーナルの営業から送付されてくるおびただしい数の顧客紹介票を見る立場にあったが、これを見ることにより、投資ジャーナルでは株式分譲と称してその時点での株価より一割程度も安い株価で株式を顧客に譲渡していること、このように顧客に株式を時価よりも一割も安い株価で譲渡するについて合理的な理由はないことを認識していた。
(五) 東証信では、昭和五八年一月ころから投資ジャーナルで注文をとったのとは別個独自の株式分譲活動をしており、この株式分譲の銘柄、株式分譲価格等を被告Eが決定している。
以上の事実がそれぞれ認められ、これに反する被告Eの本人尋問の結果は内容自体があいまいで、かつ根拠の説明が乏しいものであり、到底信用することができない。
2 被告Eの責任
(一) 不法行為責任
(1) 前記認定事実によれば、被告Eにおいて、一〇倍融資については被害者らの注文を取り次いでいないことを、また、株式分譲についてはその株券を投資ジャーナルが保有するかどうかに関係なく行われていることをそれぞれ十分認識し、被告E自身、被害者らが、投資ジャーナルグループの従業員による虚言を誤信したがために、現金、株券等を東証信に交付したことを認識していたことは明らかである。
もっとも、被告Eは東証信の現場責任者であり、投資ジャーナルの営業部門や他の証券金融会社の業務執行に対して実質的な権限があったことまでは認められず、本件原告らとの関係で、N、Kらの意思形成に関与したものとは認められないから、原告らに対する共同不法行為責任としては、原告らの取引のうち東証信が関与したものに限定され、原告らのその余の取引について不法行為責任を認めることはできない。
(2) よって、本件では、別紙一覧表「取引NO.」欄記載の2ないし4、10、11、20、24、25、29、30、32の各取引によって被った損害について責任が認められる。
(二) 取締役としての責任
原告らは、被告Eが相愛会の取締役であり、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして、商法二六六条の三による責任を負うべき旨主張する。
原告らと投資ジャーナルグループとの本件取引期間中、被告Eが相愛会の取締役として商業登記簿に登記されていることは弁論の全趣旨により認められるが、相愛会が原告らに対し違法行為をなしたと認めるに足りる証拠はない。
よって、原告らの被告Eに対する取締役としての責任に関する主張は理由がない。
六 被告Fについて
1 証拠(<略>)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 経歴
被告Fは、昭和二六年三月高知県内の高校を卒業し、昭和五一年七月まで大蔵省理財局の事務官等として勤務したが、昭和五一年に退職し、その後行政書士、外資系証券金融三社のマネージャー、金融等のコンサルタント会社の経営などをした後、昭和五七年一〇月東クレに入社し、昭和五九年六月一九日ころまで、同社の営業部長又は取締役として、同社の営業全般についての責任者の立場にあった。
(二) 被告Fは、昭和五七年一〇月初めから東クレの責任者として仕事をするようになった。しかし、当時既に東証信では一〇倍融資について顧客の注文を証券会杜へ取り次いでおらず、東クレでも同様の営業をすることになっていたので、東クレの開業前に、KがNに対し「被告Fに話しておく必要がないのか」と確認をしたところ、Nは、「大丈夫である」旨の回答をした。
(三) 東クレの当初の約諾書(<略>)は、Oが東証信の約諾書を参照して同趣旨のものを作ったものであり、同約定書には、詐欺を免れる口実として相対売買条項が存していた。しかし、東クレ開業後間もない昭和五七年一〇月か一一月ころ、被告Fが「この約諾書じゃまずいから変えるよ。」といって、相対売買条項を削除し、預託担保を随時処分可能な条項に変更した新しい約諾書を作った。
(四) 昭和五八年一月ころからは、被告Fは、Oが東クレの顧客からの注文についてクイックビデオを使って仮装売買の値決めをしているのを見ていた。
(五) また、株式分譲についても、被告Fは、東クレの責任者として、毎日、投資ジャーナルの営業から送付されてくるおびただしい数の顧客紹介票を見る立場にあり、これを見ることにより、投資ジャーナルでは株式分譲と称してその時点での株価より一割程度も安い株価で株式を顧客に譲渡していること、しかも、譲渡される株式の銘柄は多岐にわたり、一人の顧客に大量に、中には繰り返し行われていることを十分承知していること、このように一人の顧客に大量の株式を時価よりも一割も安い株価で譲渡するについて合理的な理由はないこと、前記のとおり一〇倍融資については顧客の注文はすべて証券会社に取り次いでいないことを認識していた。
(六) 東クレでは、独自の営業活動をしておらず、顧客はいずれも投資ジャーナルで注文を取った者らではあるが、その入金先は東クレとなっていた。そして、顧客の多くは、自己のした投資が間違いのないものであることを確認するため、取引の都度東クレに電話を入れたり、入金すべき現金、小切手、株券等を届けがてら直接東クレの事務所を訪れるなどしていたところ、被告Fは、これらの顧客に対し、自らあるいは東クレの従業員を介し、少しの不安も感じさせないよう巧みに応対していた。
(七) 被告Fは、昭和五八年二月ころ、東クレの従業員であった訴外Wに対し、株式分譲株を投資ジャーナルが保有しておらず、株式分譲が詐欺であることを告げて、顧客からの株券返還請求を阻止するよう指示している。
(八) 株式分譲に際しては、投資ジャーナルの営業係員が顧客に対し、「投資ジャーナルが安いときに仕込んだ株を仕込値で分けてあげます。株を保管させている東クレに代金を送って下さい。」などといって誘いかけ、顧客から東クレに問い合わせがあると、被告Fらの係員が投資ジャーナルの係員と口裏を合わせた応答をしていたが、東クレがそのような株を投資ジャーナルから預かっていた事実は全くなく、被告Fもこのことを十分知っていた。
以上の事実がそれぞれ認められ、これに反する被告Fの本人尋問の結果は内容自体があいまいで、かつ根拠の説明が乏しいものであり、到底信用することができない。
2 被告Fの責任
(一) 前記認定事実によれば、被告Fにおいて、一〇倍融資については被害者らの注文を取り次いでいないことを、また、株式分譲についてはその株券を投資ジャーナルが保有するかどうかに関係なく行われていることをそれぞれ十分認識し、被告F自身、被害者らが、投資ジャーナルグループの従業員による虚言を誤信したがために、現金、株券等を東クレに交付したことを認識していたことは明らかである。
もっとも、被告Fは東クレの現場責任者であり、投資ジャーナルの営業部門や他の証券金融会社の業務執行に対して実質的な権限があったことまでは認められず、本件原告らとの関係で、N、Kらの意思形成に関与したものとは認められないから、原告らに対する共同不法行為責任としては、原告らの取引のうち東クレが関与したものに限定され、原告らのその余の取引について不法行為責任を認めることはできない。
なお、別紙一覧表「取引NO.」欄記載の27の取引については、被告Fが東クレを退職した昭和五九年六月一九日後に東クレに対して現金が交付されているが、被告F自身が原告中村を欺罔したことにより現金が交付されたものであるから、退職後に交付したものであっても、被告Fはこれについては責任を負うべきである。
(二) よって、本件では、別紙一覧表「取引NO.」欄記載の22、26、27の各取引によって被った損害について責任が認められる。
第四 結論
原告らは、それぞれ別紙一覧表の各「交付年月日」記載の日に、投資ジャーナルもしくは証券金融三社の従業員による前記第二のとおりの欺罔行為により、真実は一〇倍融資や株式分譲等を全く実行するつもりがないのに、融資を実行して株式の買い付けを証券会社に取り次いだり、投資ジャーナルから預かっている株式を時価より安く譲り受けた旨誤信し、年間指導料、入会金及び株式買付代金(担保)等の名目で、同表記載の各「交付品目」欄記載の現金もしくは株券を交付することにより騙取されたこと、原告らは株券の交付を受けないことなどによって、それぞれ別紙一覧表の各原告に対応する「損害合計」記載の金員相当の損害を被ったことになる。
そして、前記第三のとおり、被告A、同B、同C、同E、同Fらは共同不法行為が成立するから、原告らの右損害のうち別紙一覧表記載の各原告に対応する「認容額」欄記載分については、損害を賠償する責任があるというべきである。
よって、原告らの本訴請求は、主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求については理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官青山邦夫 裁判官村瀬憲士 裁判官長屋文裕は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官青山邦夫)
別紙一覧表<省略>